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 『…はないか?』
 耳の奥で木霊する、今でも脳裏に鮮明に焼きついている一言。

■□■□■□■

 窓の外から聞える小さな合唱。それが虫の鳴き声と認識するのに数秒かかった。窓から注ぐ衛星の反射光は柔らかく、優しく俺と隣人を照らす。
 隣人が起きない様に体制はそのまま、眼だけを壁掛けのデジタルに移す。その先の表示パネルの数字は薄暗く『1・2・3』と順番に光っていた。
 只でさえ今回の任務は気を使う任務で、注意力の足りない(しょっちゅう劾や風花にも言われてるけど)俺には向かない任務で、正直、普段のMS戦より疲れた。そしてさらにその後の行為で疲労が蓄積されて、変な時間に寝てしまい、こうして変な時間に眼を覚ましてしまった。

 ちなみに俺の隣で上半身裸のまま寝ているのは傭兵家業では名の知れた『サーペーントテール』のリーダ、叢雲劾。この業界ではちょっと恐れられている人間だけど、寝顔は結構かわいかったりする。俺の弱さの証である顔の傷や体中の傷を『きれいだ』と言うちょっとかわった奴。でも本当にすごい奴。
 そんなすごい劾の無防備な寝顔を見ている時はいつもちょっとした、いやかなりの優越感を味わえる。


 今回の任務地は、地球と同じ様な衛星と恒星を持つ惑星。
 この惑星近くの恒星からは、光源こそ取れるものの距離が離れすぎて熱源は足りないらしく、外気管理は全てコンピュータ制御とのこと。
 夜間の外気は23度に設定され、虫たちには過ごしやすい気温みたいだか、俺にはちょっと肌寒く感じる。そのせいか、隣人の体温が心地よい。
 ちなみにこの恒星の質量は太陽の数十倍もあるため、あと十数年で消滅するらしい。そうなるとこの惑星も衛星も一緒に…消滅する。 惑星・恒星・衛星。全てが微妙なバランスで成り立ち、一つでも欠けると全てが無に変える。いくら技術が進んだといてもまだ『人』には恒星の延命はできない。

 今回任務は、この惑星の移住先となるコロニーの要人警護。
 現在この惑星が有する資源や遺産等の権利や保護、移住に当たって色々揉めているらしく、会談が終わるまでの警護が任務。
 そして、その要人は夕刻には何事もなく無事にまた空へ帰って行ったので、俺たちの任務も完了。(早々に片付いたのだが、依頼主の計らいで帰還は明日の早朝となった。)

 俺たち二人にあてがわれた部屋はお世辞にも高級感はないが、小奇麗なそれなりの一室。

────でも二人で一部屋って…。普通は個々に部屋をくれるもんだろ?

 部屋に通され早々に俺の口から出したかった言葉。でも実際は、半分も言わないところでクライアントに報告して帰ってきた劾に塞がれた。

■□■□■□■

 ふと、ちょっと小腹が空いたのを感じ、よくよく思い返してみると変な時間に気を失っていたせいで夕飯にもありつけなかったことも思い出した。。
 俺がこんな時間に起きて、小腹を空かす羽目になった原因は、今も規則正しい呼吸を繰り返している。
 そしてふと見た隣のベット。
 きれいに洗濯されてアイロンの効いたベットカバーには使った痕跡が全く、ない。

────男二人でこの部屋使っているのに。。。これってまずいよな。。やっぱり。。

 明日、俺たちが帰った後に掃除に来る人が不振に思わないように慌ててベットに転がり使用感を出す。
「これでいいっか。。あ」
 変な動きをしたせいで、先ほど劾に注ぎ込まれたものが足の付け根を通過するのを感じた。
「…ばかやろう!」
 隣のベットに小さく悪態をついてバスルームへ走る。

■□■□■□■

『キュ』

 昔ながらの蛇口タイプの栓を捻って、劾の痕跡を流しだそうと大量の湯を浴びる。流しだそうとしているにうちに思い出した劾との行為で火照った体を一緒に冷ましながら。 そしてゆっくりと今日の任務を振り返える。

────今日の任務はきっと劾一人でもできた任務だ。それなのになんで俺を連れて行ったんだ。。。

 今日の任務が脳裏を巡る。
 要人の警護。物陰に隠れて要人を暗殺しようとする奴らの排除。
 確かに何度が要人は狙われた。でも、すべて照準が向けられる前に劾が排除していた。俺がやったことは特に何も、ない
  ────わからない。。。

 聞くことは簡単だ。でもそれじゃ駄目なんだ。劾に頼ってばかりじゃ・・・。自分で考えて、答えを出せるようにならなくちゃ────。

『トクン・トクン』

「なぁ。劾。俺でよかったのか…?」

 ポツリと口に出た言葉。
一番聞きたくて、でも聞けなくて。
事ある毎に脳裏を横切る本音。

────俺の代わりはいくらでもいる…。

シャワーから降り注ぐものか、自分のものか、どちらかわからない水滴が足元のタイルに落ちた。

「ここの水は硬水だから長く浴びるとよくないぞ」
「ガ、劾!?」
 声のする方を向くと上半身裸のままの劾が立っていた。慌てて顔を拭うが、一度緩んだ涙腺はそうそうに戻らない。
「イライジャ。お前は考えが足りない処も多いが、余計な事を考えすぎる処もありすぎる。
もっと瞬時に判断できるようにならないとこの先…」
 そう云いながら、濡れたままの俺を抱きしめた。
「死ぬぞ」
 最後の言葉と一緒に俺の体はさらにきつく抱きしめられた。

────死

 『死』は、確かに怖い。でも、俺みたいな半端者が完璧な傭兵である劾のために死ねたらそれは本望だ。そう思う自分ともっと劾を一緒にいたいと願う自分。
 そして自分が死んだ後、他の俺の知らない誰かが、劾の、風花やロレッタ、リード、皆と一緒にいるかと思うと無償に寂しくて、悲しくて、膨れたやりきれない思いにまた涙がこぼれた。
 そんな俺の弱いココロを劾は優しく唇でぬぐってくれた。
「各クライアントの望む傭兵はいくらでも代わりはいるだろう…。」
 劾の声が浴槽の響く。俺はそのまま劾の言葉の続きを待った。
「…」
「…だが、このサーペントテールに必要なイライジャ・キールとゆう傭兵ははお前しかいない。」
「ガイ…」
「代わりなんていない…」
 最後は『いない』とも『いらない』とも聴こえた。
 さらに緩んだ目頭から落ちた涙を劾が優しく舐め取る。
「風邪ひくぞ」
 シャワー室から寝室に連れて行かれ、そしてそのままベットに押し倒された。

 顔にかかる劾の前髪。その隙間からみえる微笑。
 今、俺だけに向けられている。
 この微笑は窓際からこぼれる光の様に優しくて暖かい。

 今、劾と二人でお互いの体温を確かめ合っているこの空間は十数年後には水素やヘリウム、大量の塵の漂う暗黒の空間となる。

──── 一面暗黒の世界。無の世界。

 でもそこに漂う水素やヘリウムその他の物質で再び惑星や恒星が誕生するかもしれない。何千年、何億年かけて。ここからまた新たな銀河系が始まるかどうかは誰にもわからない。そして誰にも決める権利はない。

────劾が今回の任務に俺を同行させた理由。
定かではないけど。。ちょっとわかった気がした。

 恒星の寿命はその質量にもよるが、この恒星はすでに数億生きている。そんな恒星に比べたら俺たちの一生なんてほんの一瞬。星の一生に比べたら一瞬だけど、今、俺たちは生きている。

 その一瞬をどう生きるか…。何のために生きるか。自分の存在理由、価値は他人が決めるものではなく、自分で決めるもの。

 劾に訊いても答えが返ってこないのはわかっているから聞かない。
あと数十年後には消え行く恒星の暖かさを月に似た衛星を通して浴びながら、目の前の今を感じでいた。
そして忠誠に似た願いと共にベットへ沈んだ。
何にしても今の俺がわかるのは、俺はサーペントテールに、劾の隣にいて良いってこと。

俺は生きている。
そしてこれからも
生きる。

この叢雲劾と共に。。。


虫たちが鳴いている。。

敵を威嚇するため。
子孫を残すため。

そして…

仲間を呼ぶために。。。。


『・・・おまえ、サーペントテールに来る気はないか?』


END20050914



▼なんだろうね。。とにかく劾はイライジャが「好きなんだよ」って。
理屈抜きで。
コンプレックスの塊で、でも頑張りやさんなイライジャを、イライジャだから劾はとっても好きなんだ!と主張し隊!←皆、うちが主張しなくてもわかっているから。。(笑)

もっと練ってからあげれば良かったんだけど。。(滅)
つーか。数時間で書き上げ。。。。『萌』ってすごいね(笑)
でもやっぱり稚文。。(号泣)


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